大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和55年(行ツ)69号 判決

上告人

森田隆昭

外二名

右三名訴訟代理人

上坂明

外五名

被上告人

大阪府選挙管理委員会

右代表者委員長

村主好啓

右参加人

関川昭雄

右訴訟代理人

石川元也

外七名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人上坂明、同北本修二、同下村忠利、同谷野哲夫、同三上隆、同沼田悦治の上告理由第一点について

「川昭」と記載された投票(二票)は参加人関川昭雄の氏の一部「川」と名の一部「昭」を記載したもので参加人の氏名の略記と解され参加人に対する投票意思を確認することができるとして参加人に対する有効投票と認めた原審の認定判断は、原判示の事情の下ではこれを是認することができる。論旨は、採用することができない。

同第二点について

「関川昭お((アキオ))」と記載された投票(一票)中振仮名に付された括弧は振仮名であることを示すためのもので有意の他事記載にあたらないとして右投票を参加人に対する有効投票と認めた原審の判断は、これを是認することができる。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(伊藤正己 環昌一 横井大三 寺田治郎)

上告代理人上坂明、同北本修二、同下村忠利、同谷野哲夫、同三上陸、同沼田悦治の上告理由

第一点 投票を有効と認定できるのは、投票の記載自体から選挙人が候補者の何びとに投票したのか、その意思を明認できる場合でなければならない(公選法六七条)。もとより、選挙人の投票意思の認定にあたつては諸般の事情を考慮しうるべきこと、あるいは投票の記載に誤字、脱字等が存在しても、それ故にただちに投票意思の明認が妨げられるものでないことは言う迄もなく、つとに諸判例が述べるところである。しかしながら、他方において投票は特定の候補者に対する投票意思の表示であるから、積極的に特定人を志向する意思が明らかでなければならず強いて推測すればこの候補者を選択したものであるというが如き過度の推認による判定には慎重でなければならない(最判昭和四二年九月一二日民集二一巻七号一、七七〇頁)。特定の投票について、投票意思を明認しえるのか、それとも強度の推測の結果としてそうであるのかについての確たる一般的区別基準を設けることには困難を伴う。しかしながら、投票行為は最も市民的な営為であるから、誤字、脱字の内容について合理的に説明しえるか否かも一判定要素となると言うべきである。

原判決は「川昭」の二票(甲第一号証の四一の(2)、同号証の一一五の(3))につき、氏の一部「川」と名の一部「昭」を記載したもので参加人の氏名の略記であることは明らかとしたが、本票について右の如き解釈が可能であることは上告人らにおいてもこれを当然の前提としつつ、しかし、通例の略記として合理的に説明しえない以上、投票意思が明確でないものとして無効とすべきであるというのである。即ち、参加人が自己の氏名を「せき川昭雄」として氏の冒頭部分を平仮名で表示して選挙運動を行い、あらゆる文書においても、その旨徹底したとする事実に照らすと、「川」と「昭」の漢字二文字の筆記能力を有する投票者について、何故に「せき」という平仮名を脱落し、意味不明瞭な略記をしたかについての合理的説明をなしえないのであつて、他にみられる誤字、脱字ないし文字の拙劣な投票においても氏の冒頭部分を欠落させた投票は存在しないのである。要するに、本件二票の記載は通常においてありうるべきもない記入であつて、単に符号的に一部が一致するにすぎないのである。

第二点 他事記載による投票の無効(公選法六八条五号)の趣旨は有意の他事の記入によつて、それを暗号とし、投票者が何びとであるか、を知らせようとする投票及び最初から有効な投票にしようとする意思をもつていない不真面目な投票を排斥しようとするものである。ところで、振仮名を付した投票は他事に該当しないとするのが諸判例であり、他方氏名若しくは各部分に括弧を付した投票は無効とされている。他事とは言うまでもなく候補者の氏名以外の記入でかつ公選法六八条第五号但し書において許容する以外のものであつて、それが一般的に使用されるか否かとは関係がない。

即ち、前記事例によつても、氏名に括弧を付すことはむしろ一般的なことであるが、これが他事とされることには先例をみる限り異論がないのである。他方、氏名に対する振仮名の記入は特に指定された場合以外はむしろ付さないのが通例であるにも拘らず、氏名の記載であるが故に他事とはされないのである。そうすると、原判決が「関川昭お((アキオ))」(甲第一号証の八)につき慣用的に使用される表記方法であるとして、これを有効とするのは、他事記載についての一般的理解を誤つたものであつて、アキオ部分は兎に角としてその括弧は他事記載に該当することが明らかである。

よつて、訴外隅田康男と参加人の一票の差は逆転するものであつて原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があり、破棄さるべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例